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設計図書の著作物性:建築特集3

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 設計図書の著作物性を検討する際には、まず建築設計図と建築の著作物の違いを把握する必要があります。
ともに著作権法上の著作物として保護されますが、微妙な違いがあります。

 • 「建築の著作物」は建築物それ自体を指し、さらに、建築物それ自体が“建築芸術”といえるものでないと建築の著作物として保護されないこと、そして建築に関する図面に従って建築物を完成させると「建築の著作物の複製」になるということです。

 • 「建築設計図」は創作性等の要件を満たせば図形の著作物として保護され、そして、その図面に依拠して別の図面を作成したときは「図形の著作物の複製権侵害」になります。

 以上のことをふまえた上で、設計図書の著作物性を検討したいと思います。

 

Ⅰ 設計図書の著作物性とは?

 まず最初に設計図書とは何なのか、著作権法上どのように位置づけられるのかを考えましょう。

 建築士法では「この法律で『設計図書』とは建築物の建築工事実施のために必要な図面(現寸図その他これに類するものを除く。)及び仕様書を、『設計』とはその者の責任において設計図書を作成することをいう。」と定義されています。
 設計図書は、多岐にわたる図書で構成され、中でも、建築設計図はその中核をなし、ほかの全ての図面などとともに全体で一つの作品を構成していると考えられます。
 構造図や設備図、あるいは仕様書も同様の位置づけになるでしょう。

 建築・建設は、建築主の要求はもちろん、構造、材料、環境工学、防災など建築物に求められる様々な項目を設計の条件に置き換えた上で、その回答を導く作業です。
 一連の作業過程で反映された設計者の思想・感情・価値観が図面上に表現されたとき、「図形の著作物」として著作権法上で保護されます。

 設計図書の中核をなす設計図は、著作権法上「地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物」として例示されています。
 設計図に学術的な性質があることは自明ですが、それが著作物として保護されるためには「思想又は感情を創作的に表現したもの」である必要があるということです。

 おぼえ
 • 建築設計図は設計図書の中核をなし、ほかの全ての図面などとともに全体で
  一つの作品を構成している
 • 設計者の思想・感情・価値観が図面上に表現されたとき、「図形の著作物」と
  して著作権法上で保護される
 

次に、判例について紹介します。

 

Ⅱ 判例はどうなっているか?

 元来、著作権法は多種多様な価値ある情報のうち、文化の発展に寄与する情報を保護するものであり、産業の発達ほかを目的とする特許法などと区別されています。
 ところが、創作者の個性の表現を保護する著作物だけでなく、設計図のように“経済財”ともいえる著作物も包含した現行の著作権法があるので、法で定められた「著作物性」だけを理解するのは難しいといえます。
 現在までに多少の判例の蓄積があり、判例が定着した感があるので、ご紹介いたします。

基本的な判例〕として
『—原告の業務に従事する設計担当者が、その職務上、その感覚と技術を駆使して独自に製作したことが認められる。したがつて、原告設計図は、著作権により保護される著作物であり、原告は、その著作者であり、著作権者であるというべきである。—』
【S52.01.28東京地裁昭和48(ワ)4501】

 これは「設計者がその知識と技術を駆使して独自に製作したもの」に図面の創作性を認めたものです。

 おぼえ
 • 著作権法は文化の発展に寄与する情報を保護するもの
 • その知識と技術を駆使して独自に製作したと認められれば、図面の創作性を
  認めたこととなる

さらに、具体的な判例を紹介します。

近時の判例〕として
「—設計図は、そのすべてが当然に著作権法上の保護の対象となるものではない。設計図が著作物に該当するというためには、その表現方法や内容に、作成者の個性が発揮されていることが必要であって、その作図上の表現方法や内容が、ありふれたものであったり、そもそも選択の余地がないような場合には、作成者の個性が全く発揮されていないものとして著作物には当たらないというべきである。–」
【H15.02.26東京地裁平成13(ワ)20223】

 これは「他の表現形式を選択することが可能か」という基準で創作性を判断するとしても、設計図の「表現方法」だけでなく「表現された内容」までで創作性を評価するものです。

 もちろん、設計にあたり、施主の要望の建築条件等が限定されておらず、設計者の選択する余地が大きいほど創作性を発揮しやすいのはいうまでもありません。
 上記2つの判例以外にも多々判例(S54.06.20東京地裁昭和50年(ワ)第1314号・S60.04.26東京地裁・S54.02.23大阪地裁昭和51年(ワ)第2991号・H14.12.19東京地裁平成1(ワ)2978・H5.11.18東京高裁平成5(ネ)1972・H04.04.30大阪地裁昭和61年(ワ)4752号)がありますが、これらの判例に共通している設計図の著作物性の有無は、創作性の有無で判断されています。
 これは「表現方法」によるところが大きいです。
 表現方法に創作性の有無を求めるとき、「技術的な思想又は感情」の有無が俎上にのることはあまりなく、表現方法が選択できるかどうかが、著作物性の判断要素の中心になっているようです。

 おぼえ
 • 設計図の「表現方法」だけでなく「表現された内容」までで創作性を評価する
 • 表現方法が選択できるかどうかが、著作物性の判断要素の中心になっている

 次では判例の法的理由を探ってみます。

 

Ⅲ 判例の法理を検討

 これら判例にみられる法理を整理すると「アイデア自由利用の原則」が一貫しています。

 ※アイデア自由利用の原則…アイデアは万人共有の財産であり独占は許されない。(このことと審査を経た特許等の独占とは別の問題である。)即ち、著作権法上保護されるのは表現に対してであり、アイデアに対してではない。さらに、そのアイデアを実現するために、その表現を使わざるを得ないときにはその表現に対する保護は否認され、アイデアの自由利用が優先される。

 このことは、以下のようなといった国内外の法理にもみられます。

 1.アイデアと表現の二分法理
(アイデアと表現を要素とする著作物は表現を保護し、アイデアは保護しない)
 2.マージ理論
(アイデアに不可避な表現は保護しない)
 3.ありふれた表現の法理
(ありふれた表現は創作者の個性を否認し保護しない)
 4.創作性の概念
(些細な改変・不可避の表現・平凡な表現は個性がない、つまり創作性がないと考え保護しない)
 5.実用品の法理
(機能性の表現と芸術性の表現との間で識別性・独立性がないとき両方とも保護されない)

 おぼえ
 • 法理に一貫しているのは「アイデア自由利用の原則」
  →著作権法上保護されるのは表現に対してであり、アイデアに対してではない
  →1.アイデアと表現の二分法理、2.マージ理論、3.ありふれた表現の法理、
   4.創作性の概念、 5.実用品の法理の5つが国内外で見られる

次では著作権法が定義する「表現」について考察します。

 

Ⅳ 表現とは

 次に著作権法で保護される「表現」とは何なのか、その要素は何なのかを考えてみましょう。
 著作権法にある「思想又は感情」は「アイデア」の側面もあります。その思想または感情、あるいはアイデアを表現するとき、その創作性の有無が保護に値するかどうかを考えるわけです。
 それでは、表現されたものとはどこまでを指すのでしょうか。

 建築図書の制作過程で考えてみた場合…

 • 第1段階…建築主の要望等を設計の前提として、ほかの諸条件と併せて自己の思想または感情あるいはアイデアとしての基本概念が創出されます。

 • 第2段階…表現の非文字的要素である具体的な表現と密接に結びついた詳細な観念が醸成されます。この段階でエスキス(下絵)になることもあります。

 • 第3段階…表現の文字的要素である作品を線や記号で表現した具体的な内容として設計図書を完成させます。

  これが目に見える形で著作物として認識されると考えられます。
 表現されたものとは、第3段階の文字的要素だけでなく、第2段階の非文字的要素も考慮された上で創作性の有無が判断されるということです。

 おぼえ
 • 創作性の有無が「表現」の基準
 • 流れとしては、1.基本概念が創出される →2.非文字的要素である観念が醸成
  される →3.文字的要素である作品が完成される
  ※第3段階の文字的要素だけでなく、第2段階の非文字的要素も考慮された上で
  創作性の有無が判断される
 

 

Ⅴ 最後に

 冒頭に指摘したように“経済財”といえる技術的性格の強いものの著作物性を他の著作物と同様にとらえるのが困難ということが分かりますが、学術的な性質を持つ設計図に創作的な表現が認められる限り著作物として保護されると理解できます。

(参考1.)設計図書の項目一覧

 著作物の例示  建築図書  土木建築物図書  根拠条文
小説、脚本、論文、講演
その他の言語の著作物
   報告書  第10条
 計画概要書  企画書  第10条
絵画、版画、彫刻
その他の美術の著作物
 エスキス・透視図
(パース)
プレゼンボード
(建築物)
 イメージパース
(構造物・庭園)
 第10条
建築の著作物  (設計した建築物)  (設計した構造物・庭園)  第10条
地図又は学術的な性質を有する
図面、図表、模型
その他の図形の著作物
 地図  地図  第10条
 基本設計図・実施設計図
{意匠図・構造図(伏図・軸組図)}
設備図・(構造計算書)
 設計図面  第10条
 図表  図表  第10条
 模型  模型  第10条
 エスキス・透視図
(パース)
プレゼンボード
 イメージパース  第10条
 映画の著作物  ビデオ等  ビデオ等  第10条
 写真の著作物  竣工写真  写真・CG  第10条
 プログラムの著作物  プログラム  プログラム  第10条
 編集著作物  編集物  編集物  第12条
 データベース
の著作物
 データベース  データベース  第12条
の2

(参考2.)エスキスから竣工写真まで諸図書
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 第3回のまとめ

 • 建築設計図は設計図書の中核をなし、ほかの全ての図面などとともに全体で
  一つの作品を構成している
 • 設計者の思想・感情・価値観が図面上に表現されたとき、「図形の著作物」
  として著作権法上で保護される
 • 著作権法は文化の発展に寄与する情報を保護するもの
 • その知識と技術を駆使して独自に製作したと認められれば、図面の創作性を
  認めたこととなる
 • 設計図の「表現方法」だけでなく「表現された内容」までで創作性を評価する
 • 表現方法が選択できるかどうかが、著作物性の判断要素の中心になっている
 • 法理に一貫しているのは「アイデア自由利用の原則」
   →著作権法上保護されるのは表現に対してであり、アイデアに対してではない
   1.アイデアと表現の二分法理
   2.マージ理論
   3.ありふれた表現の法理
   4.創作性の概念
   5.実用品の法理
   の5つが国内外で見られる
 • 創作性の有無が「表現」の基準
 • 流れとしては、1.基本概念が創出される →2.非文字的要素である観念が醸成
  される →3.文字的要素である作品が完成される
   ※第3段階の文字的要素だけでなく、第2段階の非文字的要素も考慮された
   上で創作性の有無が判断される

次は、「設計図書の複製および複製権侵害」をテーマに解説します。

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(担当:はちおうじ総務相談所 長岡)
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