img_201412_04

 著作権法では、設計図書の設計者に著作権が認められますが、設計図の著作権で問題となるのが「複製」です。
 今回は、複製権の範囲や実際にどのような行為が侵害となるか、そしてその判断と対抗措置や罰則、注意すべき事項に加えて、積極的に他人の設計図を利用する方法について述べてみたいと思います。

 

著作者に複製する権利がある

 著作権法第21条で「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する」と定められている通り、著作者は自らの著作物を複製することができます。
 これは、他人が許諾なく無断で複製物をつくることを禁止できることを意味しています。
 しかし、当然のことながら、この考えはその設計図書が著作権法に定義している著作物とされることを前提としています。

 設計図書は、著作権法第10条1項6号の「地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物」に該当します。
 この権利を侵害された、または侵害のおそれがある場合、著作者はその者に対して、差止請求(この場合、侵害者の故意や過失は問いません)、損害賠償請求、名誉回復請求などの必要な措置をとることができます。また、罰則もあります。

 おぼえ
 • 「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。」
   =“他人が許諾なく無断で複製物をつくることを禁止できる”という意味
 • 権利を侵害された/おそれがある場合、差止請求、損害賠償請求、名誉回復請求
  などの措置をとることができ、違反者の罰則もある
 

次に、複製権はどこまで適用されるか、解説します

 

Ⅱ 複製権の範囲

 著作者が設計(「その者の責任において設計図書を作成することをいう。」建築士法第2条5項)した設計図書(「建築物の建築工事実施のために必要な図面[現寸図その他これに類するものを除く。]及び仕様書」建築士法第2条5項)について、他人が無断でコピーをつくる行為を複製といい、著作権法第2条1項15号では「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」と定められています。

「有形的な再製」とは、何らかの記録媒体に著作物を記録し保存した状態をいいます。
 設計図書でいうと、CD、CD-ROM、MOなどの電子記録媒体のほか、印刷物や写真、トレース、コピーなどの紙媒体などです。

 この場合は、全体、一部、一部修正などにも複製権が働きます。
 ただし、利用するものが設計アイデアや工法技術などの場合、複製権は働きません。
 そのほか、「無形的な複製」は別途保護しています。

 おぼえ
 • CD、CD-ROM、MOなどの電子記録媒体、印刷物や写真、トレース、コピーなど
  の紙媒体が 「有形的な再製」にあてはまる
   →これらには、全体、一部、一部修正などにも複製権が働くが、
  利用するものが設計アイデアや工法技術などの場合、複製権は適用されない
 

次に、複製権侵害の具体例を紹介します

 

Ⅲ どんなものが複製権侵害といえるか?

 複製権の侵害には、
 1.著作物の有形的な再製
 2.実質的に類似している複製
 3.依拠したか・しえたか
といった種類があり、具体的には以下のような例が考えられます。

 a.他の著作者の設計図書をデッドコピー(完全に模倣)した
 b.他の著作者の設計図書を多少修正してほとんど変わらない状態で模倣した
 c.他の著作者の設計図書の一部の図面を修正して設計図を作成した 20
 d.他の著作者の設計図書の一部の図面を模倣して設計図を作成した
 e.他の著作者の設計図書に基づいて、設計図書を作成した
 f.他の著作者の設計図書をコピーし見積図面を作成して見積依頼した
 g.他の著作者の設計図書を一部修正し見積図面を作成して見積依頼した
 h.他の著作者の設計図書の設計者名欄を切り張りして、名前をすりかえる

「依拠したか・しえたか」の判断は、著作権の侵害に欠かせない基準です。
 その判断基準は
 1.当該設計図書が独自に創作されたものではない
 2.既存の設計図書の内容を認識していた
 3.既存の設計図書の内容を認識する状況が推定される
 といったものになり、これが認められる場合には依拠性が肯定されます。
 ただし、設計図書が「創作的表現に依拠」していなければ依拠性は否定され、著作権侵害とはなりません。

 また、設計図書は、その後建築物を施工し建設するために作成されるものなので、社会的合理性から解釈すると、建築施工上の必要性や完成後の改修工事補修工事必要な限度で複製することは許されるでしょう。
 なお、ほかの著作者の設計図書を無断で公表する等の行為は複製権の侵害ではなく、著作者人格権の侵害になります。

 おぼえ
 • 複製権の侵害には、
  1.著作物の有形的な再製
  2.実質的に類似している複製
  3.依拠したか・しえたか などがある

次に、設計図書のどの要素が複製権にひっかかるか説明します

 

Ⅳ 複製判断基準と複製権、同一性保持権および翻案との関係

 著作者は、複製権同一保持権(著作者は、その著作物およびその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。)および翻案権(著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。)を持ち、特に設計図書だと次の表のように考えられます。

   侵害する権利  複製権 同一性保持権   翻案権
 同一性  実質的類似性あり  侵害  侵害  
 変形等あり
(元著作物を感得しうる)
   侵害  侵害
 表現形式  外面的形式変化なし  侵害  侵害  
 内面的形式変化なし
 外面的形式変化なし      侵害
 内面的形式変化なし

 設計図書の複製判断基準として「同一性の判断」があげられます。

 実質的類似性は、当該設計図書が原設計図を再現したと思われるとき、また一部の変形あるいは修正はあるが、当該設計図書が原設計図を想起させるとき、同一性ありと判断されます。

 例えば、階段脇の窓位置やベランダ位置など原設計図との差異はあるものの、基本的構造部分や間取りなどが殆ど同じであると見られるときは侵害と判断されます。

 また、複製判断基準として「表現形式の判断」があります。
 設計図書の内面的・外面的な形式変化がないときは複製権・同一性保持権の侵害となり、設計図書の内面的形式の変化なく外面的な形式変化があるときは翻案権の侵害となります。

 例えば、各部屋の間仕切り線、窓の位置や部屋の配置、立面・断面等、全体的な外形をかたちづくる線や、設計図に表現している生活空間(導線や採光等の表現)などが同じ形式であるとき、侵害と判断されます。

 これらの判断要素として、設計図書の一部の図面(例:平面図)のみで比較するか、それ以外の図面についても比較検討するかによって、侵害の判断がより鮮明になると考えられます。

 おぼえ
 • 同一性の判断点…
  1.実質的類似性は、当該設計図書が原設計図を再現した
  2.一部の変形あるいは修正はあるが、当該設計図書が原設計図を想起させる
 • 表現形式の判断点…
  1.設計図書の内面的・外面的な形式変化がないときは複製権・同一性保持権の
   侵害となる
  2.設計図書の内面的形式の変化なく外面的な形式変化があるときは翻案権の
   侵害となる

 

Ⅴ 著作物の複製権が侵害された場合の対抗措置

 著作権や著作者人格権が侵害された場合、著作権法では著作者の権利を保護するために以下の規定を設けています。これらに従って必要な措置をとることができます。

 •「刑事」の対抗措置

 1.原則として、著作権、出版権、著作隣接権の侵害は「犯罪行為」であり、権利者が「告訴」を行うことを前提として、「10年以下の懲役」又は「1,000万円以下の罰金」(懲役と罰金の併科も可)という罰則規定が設けられています。企業などの法人等による侵害の場合には、「3億円以下の罰金」とされています。(第124条)

 •「民事」の対抗措置

 1.損害賠償請求
 侵害を被った者は、故意または過失により他人の権利を侵害した者に対して、侵害による損害の賠償を請求することができます(民法第709条)。 侵害を被った者は損害の額を立証しなければなりませんが、それを軽減するために、侵害による損害額の「推定」ができる規定が設けられています(第114条)。

 2.差止請求
 著作権の侵害を受けた者は、侵害をした者に対して、「侵害行為の停止」を求めることができます。また、侵害のおそれがある場合には、「予防措置」を求めることができます(第112条、第116条)。

 3.不当利得返還請求
 侵害を被った者は、他人の権利を侵害することにより利益を受けた者に対して、侵害者が侵害の事実を知らなかった場合には「その利益が残っている範囲での額」を、知っていた場合には「利益に利息を付した額」を、それぞれ請求することができます(民法第703条、第704条)。

 4.名誉回復等の措置の請求
 著作者または実演者は、侵害者に対して、著作者等としての「名誉・声望を回復するための措置」を請求することができます(第115条、第116条)。

 おぼえ
 • 著作物の複製権が侵害された場合、
  1.「刑事」の対抗措置(「10年以下の懲役」又は「1,000万円以下の罰金」、
   法人の場合は「3億円以下の罰金」)
  2.「民事」の対抗措置(損害賠償請求、差止請求、不当利得返還請求、
   名誉回復等の措置の請求 といった対抗措置がある)

 

Ⅵ 他人の設計図書を利用する場合には

 著作権法には、「著作者は他人に対し著作物の利用の許諾をすることができる」とあり、許諾を得た者は、認められた条件の範囲内で、その著作物を複製などして利用することができますが、著作権者の承諾を得ない限り、譲渡することができません
 利用許諾は、著作権者が複製権を失うことなく、他人に対して複製等の利用を認めることができます。
 その利用者は複数人でもかまいません。

 他人の設計図書を利用したいときは、その設計図書の著作者である設計士等との間で「利用許諾契約」を締結して使うことになります。
 契約なく無断で複製等をすれば著作権の侵害となります。

 

Ⅶ 他人の設計図書を譲り受けたい

 著作権法には、「著作権者はその著作権の全部または一部を譲渡することができる」とあるので、譲受を希望する場合は著作権者と「著作権譲渡契約」をして譲り受けることになります。
 ただし、著作権譲渡の契約の内容として、翻訳権、翻案権等又は二次的著作物の利用といった原著作者の権利が譲渡の目的として特掲されていない場合は、これについての権利は譲渡した者に留保されたものと推定されます。
 また、著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができません。

 さらに、共有の著作物にかかわる「共有著作権」は、ほかの共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することができませんし、共有者全員の合意を得なければ、権利を行使することができません。
 ただし、共有者の代表者を定めた上で行使することができます。

 なお、著作権の譲渡するときは、「著作権の登録」をすることをお勧めします。登録の効果は「第三者対抗要件」です。
 例えば「二重譲渡」されたときは、登録を早く備えた方が優先(排他性)されます。

 おぼえ
 • 他人の設計図書を利用したいときは、著作権者の承諾を得ない限り、譲渡する
  ことができない。
 • 設計図書を利用する場合は著作者との間で「利用許諾契約」を締結してから使う
 • 翻訳権、翻案権等又は二次的著作物の利用といった原著作者の権利が譲渡の目的
  として特掲されていない場合は、譲渡した者に留保されたと推定される。

 

Ⅷ 設計図書の積極的利用---複製権を侵害しないために

 他人の著作権(複製権)を侵害しないためには、設計図書の全部(または一部)を利用し、参考にしたいときは、その設計図書に著作物性があるかどうかにかかわらず、譲渡契約や利用許諾の手続きをするのをお勧めします。

 設計図書の著作物性の判断は非常に難しく、予期せぬ不法行為を侵してしまうことになりかねません。
 近年、コンプライアンス(法令順守)が叫ばれている中で、こうした不法行為は、企業や設計士にとって大きなダメージになるでしょう。

 また、自らの著作権の侵害予防として、「著作権の表示」を設計図書に明示することをお勧めします。

 おぼえ
  他人の設計図書の利用・参考資料にするときは、 譲渡契約や利用許諾の手続きを
  するのが好ましい。
 • 自らの著作権の侵害予防として、「著作権の表示」を設計図書に明示する。

 第4回のまとめ

 • 「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。」
  =“他人が許諾なく無断で複製物をつくることを禁止できる” という意味
 • 権利を侵害された/おそれがある場合、差止請求、損害賠償請求、名誉回復請求
  などの措置をとることができ、違反者の罰則もある
 • CD、CD-ROM、MOなどの電子記録媒体、印刷物や写真、トレース、コピーなど
  の紙媒体が 「有形的な再製」にあてはまる
  →これらには、全体、一部、一部修正などにも複製権が働くが、利用するもの
  が設計アイデアや工法技術などの場合、複製権は適用されない

 • 複製権の侵害には、
  1.著作物の有形的な再製
  2.実質的に類似している複製
  3.依拠したか・しえたか
  などがある

 • 同一性の判断点…
 1.実質的類似性は、当該設計図書が原設計図を再現した
 2.一部の変形あるいは修正はあるが、当該設計図書が原設計図を想起させる
 • 表現形式の判断点…
 1.設計図書の内面的・外面的な形式変化がないときは複製権・同一性保持権の
  侵害となる
 2.設計図書の内面的形式の変化なく外面的な形式変化があるときは翻案権の
  侵害となる

 • 著作物の複製権が侵害された場合、
 1.「刑事」の対抗措置(「10年以下の懲役」又は「1,000万円以下の罰金」、
  法人の場合は「3億円以下の罰金」)
 2.「民事」の対抗措置(損害賠償請求、差止請求、不当利得返還請求、名誉回復
  等の措置の請求 といった対抗措置がある)
 • 他人の設計図書を利用したいときは、著作権者の承諾を得ない限り、譲渡する
  ことができない
 • 設計図書を利用する場合は著作者との間で「利用許諾契約」を締結してから使う
 • 翻訳権、翻案権等又は二次的著作物の利用といった原著作者の権利が譲渡の
  目的として特掲されていない場合は、譲渡した者に留保されたと推定される
 • 他人の設計図書の利用・参考資料にするときは、譲渡契約や利用許諾の手続きを
  するのが お勧め
 • 自らの著作権の侵害予防として、「著作権の表示」を設計図書に明示する

次は、「設計図書と権利擁護」をテーマに解説します。