Ⅰ そもそも“知的財産権”とは?
知的財産権とは、「人間の幅広い知的創作活動によって創作された成果について、その創作者にある種の権利を一定期間与えようとする制度」のことです。
知的財産権は、さまざまな法律によって保護されています。
知的財産の創造と保護、そして活用を推し進めるために、平成14年12月4日に「知的財産基本法」(法律第122号)が制定されました。 この基本法では、知的財産を右のように規定しています。
知的財産とは・・・
1.発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。
2.特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう。
おぼえ 【知的財産権】=制作物の創作者にある種の権利を一定期間与えようとする制度 |
では、そもそも、「知的財産」とは何なのか。そしてその特徴とは。
知的財産は、それだけで財産的価値を持つ情報で、しかも、安易に利用されたり模倣される可能性があります。
この基本法は、知的創作活動の成果である知的財産権を、必要な範囲で社会の利用を制限し、保護する制度ということができるでしょう。
知的財産の種類は
1.著作権
2.産業財産権
3.その他
の3つがあります。
1.著作権(著作権法)
著作者人格権、著作権(財産権)、著作隣接権(財産権)
2.産業財産権
特許権(特許法)、実用新案権(実用新案法)、意匠権(意匠法)、商標権(商標法)
3.その他
回路配置利用権(半導体集積回路の回路配置に関する法律)、育成者権(種苗法)
営業秘密、商品等表示、商品形態(不正競争防止法)、商号(会社法、商法)
特許庁が所管する産業財産権の目的が「科学的、技術的な思想を保護し、産業の発展を図ること」。
一方、文化庁が所管する著作権は「思想、感情の創作的表現を保護し、公平な文化の発展に寄与すること」を目的にしています。
今後、知的財産の対象が拡大されていくでしょうから、上記以外のものも知的財産として保護される可能性が大いにあります。
おぼえ 【知的財産】=それだけで財産価値を持つ情報で、1.著作権、2.産業財産権、 3.その他 の3つがある →今後、知的財産の対象の拡大が予想される |
次に、「著作権」について詳しく紹介しましょう。
Ⅱ 著作物と著作権の関係は?
著作権法は「著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与すること」を目的にしています。
1. 著作物とは?
著作権法では、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義しています。
2. 著作物として保護を受ける、とは?
保護される著作物は、「(1)思想又は感情を(2)創作的に(3)表現したものであつて、(4)文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」という4つの条件をすべて満たす必要があります。
3. 具体的な著作物とは?
著作権法では著作物の例として次のものを挙げています。
(1)小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
(2)音楽の著作物
(3)舞踊又は無言劇の著作物
(4)絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
(5)建築の著作物
(6)地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
(7)映画の著作物
(8)写真の著作物
(9)プログラムの著作物
(10)その他 編集著作物、データベースの著作物、二次的著作物
建築業界では、(5)(6)が特に大きく関わってきます
おぼえ 【著作物】=「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術 又は音楽の範囲に属するもの」と著作権法で定義 |
4. 著作権とはどのようなものでしょうか?
著作権は、次のような権利によって構成されています。
i. 財産権である著作権には、支分権として複製権、上演権、演奏権、上映権、
公衆送信権等、口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳権、翻案権
など、及び二次的著作物の利用に関する権利も含まれます。
ii.著作者人格権として、公表権、氏名表示権、同一性保持権があり、財産権だけ
でなく人格権も保護の対象になっていることが、他の知的所有権である産業
財産権と違うところです。
5. 著作者とは、誰でしょうか?
著作者とは、著作物を創作した人のことです。
一般的に、作家や音楽家など創作活動を専門にする人を著作者と考えられがちですが、創作活動が職業でない人でも、絵を描いたり作曲したり、学術的な性質を持つ創作性のある図面を引いたりすれば、著作者となります。
しかも、著作権は、著作物を創作した時点で自動的に発生し(「無方式主義」と呼ばれます)、何の手続きもせずに権利を取得することができます。
6. 著作権の登録制度とは?
著作権法で規定されている登録制度は、著作権の発生や権利付与のためではなく、取引の安全を確保するための第三者対抗要件(当事者の間で成立した権利の関係を第三者に主張するための要件)として位置づけられています。
また、登録の事実や、著作権関係の法律の事実を公示するためでもあり、実名の登録のほか、さまざまな登録が設けられています。
おぼえ •著作権には二次的著作物の利用に関する権利も含まれる •著作者=著作物を創作した人 •著作権→著作物を創作した時点で自動的に発生 •著作権法の登録制度は、取引の安全を確保できる |
次に「産業財産権」について解説します。
Ⅲ “産業財産権”って何?
知的財産権のうち、1.特許権、2.実用新案権、3.意匠権、4.商標権の4つを産業財産権といいます。
産業財産権は、発明といった産業財産権の保護と利用を図ることで、それらを奨励しながら、産業の発展に寄与することを目的にしており、一定期間、一定の条件のもとに独占的権利を与えています。
なお、保護の対象と権利の存続期間は下の表をご覧ください。
保護対象 | 権利存続期間 | |
---|---|---|
特許 | 〔発明〕自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの | 出願の日から20年 |
実用新案 | 〔考案〕自然法則を利用した技術的思想の創作であり、物品の形状、構造又は組合せに係る考案に限る | 出願の日から10年(平成17年4月1日以降に行われる出願から10年に延長) |
意匠 | 〔意匠〕物品(物品の部分を含む)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合で、視覚を通じて美感を起こさせるもの | 設定登録の日から20年 |
商標 | 〔商標〕商品や役務の目印となる文字、図形、記号若しくは立体的 形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合 | 設定登録の日から10年(更新可) |
おぼえ •産業財産権は、特許権、実用新案権、意匠権、商標権の4つ •4つの産業財産権の権利継続期間は、権利ごとに異なるおぼえ |
最後に、「不正競争防止法」について説明します。
Ⅳ “不正競争防止法”とは?
1. 不正競争防止法の目的
不正競争防止法は「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与する」ことを目的にしています。
不正競争防止法では、不正競争を禁止する措置として、不正競争に対する差止請求権と、特定の不正競争に対する罰則を規定しています。
また、損害賠償の措置として、不正競争に対する損害賠償や営業上の信用回復措置、民事訴訟上の手続き損害賠償の推定規定を設けています。
2. 不正競争の定義
不正競争防止法では、右のような不正競争の例が挙げられ、これらに当てはまらない限り不正競争防止法上の“不正競争行為”とはされません。
(1)周知表示混同惹起行為(第1号)
(2)著名表示冒用行為(第2号)
(3)商品形態模倣行為(第3号)
(4)営業秘密関係(第4~9号)
(5)技術的制限手段に対する不正競争行為(第10・11号、第7項、第8項)
(6)不正にドメインを使用する行為(第12号、第9項)
(7)原産地等誤認惹起行為(第13号)
(8)競争者営業誹謗行為(第14号)
(9)代理人等商標無断使用行為(第15号)
(10)外国の国旗の商業上の使用禁止等(第16条、17条)
(11)外国公務員等に対する贈賄の禁止(第18条)
おぼえ •不正競争防止法を保護するのは、“営業上の私益”と、“公正競争の秩序”を守る ため •不正競争によって営業上の利益を侵害される(おそれがある)者に対し、 “不正競争の停止・予防請求権”を付与して不正競争の防止を図る •営業上の利益を侵害された者の損害賠償に関わる措置などを整え、事業者間で 公正に競争させる |
第1回のまとめ
•【知的財産権】=制作物の創作者にある種の権利を一定期間与えようとする制度 |
次は、テーマを掘り下げ、「建築の著作権を俯瞰する」をテーマに解説します。